インナーマーケティングとは社内に対して行われるマーケティング施策ですが、インナーマーケティングのもたらす効果はどれほど認知されているでしょう?社外へのマーケティングの必要性・重要性は広く知られていますが、社内に向けてはどうでしょうか。
マーケティングは社内に対しても大きな効果が期待できるため、社内の人材育成や人事関連を担当する方は知っておくべき施策と言えます。
- 人材育成を効率良く進めたいものの、何から着手するべきかわからない
- 社員のモチベーション向上ができず困っている
- 理想的な組織状態が作れていないと感じるが、具体的な対策が思いつかない
このような課題の解消に、インナーマーケティングが役立ちます。本記事ではインナーマーケティングについて、意味や目的、手順などを解説します。インナーマーケティングの効果的な方法も取り上げました。
人材育成や人事など社内体制に深く関わる方や、組織強化に関してお悩みの方は、ぜひお読みください。
マーケティングの定義
インナーマーケティングについて確認する前に、マーケティング全体の定義をおさえることが大切です。
マーケティングとは、販売活動をしなくても売れるような仕組み・状態を作ることであり、以下3点を考える必要があります。
- 誰に:自社の商品やサービスを届けたいターゲットの人物像
- どのような価値を:顧客のニーズを満たすために自社が提供する価値
- どのような方法で:自社商品・サービスを求める顧客に、どのような方法で価値を提供するか(商品・サービスを供給するか)
インナーマーケティングを知る
マーケティングは多くの場合、社外を対象としたアウターマーケティングを意味します。単にマーケティングと表現する場合は、アウターマーケティングの意味で使われていると考えて良いでしょう。
しかし昨今は、社内を対象としたインナーマーケティングが求められる場面も増えています。企業のブランディングや価値向上のためには対外的な施策だけでなく、社内の意識改革が必要不可欠です。そのためには社内に対しても、マーケティングの流れに沿った施策を行う必要があります。
本記事で、インナーマーケティングの大きな目的や施策実施に必要な要素、具体的な手順などを解説します。いずれもインナーマーケティングで重要な要素のため、ぜひおさえておきましょう。
インナーマーケティングとインナーブランディング
インナーマーケティングとインナーブランディングは同じ意味として扱われるケースが多いです。しかし厳密には、両者は異なる性質を有しており、押さえるポイントが変わります。
マーケティングは顧客となる人物像を明確にし、ターゲットが抱えるニーズを考え、提供する価値を具体化していきます。全体でさまざまな手順を踏みますが、中でも特に重要なのはニーズの把握。ターゲットのニーズを明確化した後に、自社がやるべきことを検討できるようになります。
インナーブランディングは、インナーマーケティングにおけるニーズの把握ができた後から進められる施策。マーケティング施策としてターゲットのニーズを調べた後、ブランディングとして伝えるべき事項を具現化します。
インナーマーケティングとインナーブランディングは密接に関係していますが、あくまで別物として捉えておかないと押さえるべきポイントがブレる恐れがあります。
インナーマーケティングが求められる背景
昨今はインナーマーケティングの注目度が高まっており、企業が必ず実施したい施策のひとつです。インナーマーケティングが求められる背景として、以下のような理由があげられます。
- ブランディングの重要性が高まっている:多くの企業が存在する中、差別化のためにはブランディングが非常に重要です。ブランディングのためには企業が掲げる理念や価値観を対外的に示す一方で、社員の意識や仕事の進め方などを一致させることが不可欠であるためインナーマーケティングが実施されます
- 社員のやりがいや満足度を高める:人材不足が深刻な昨今、離職率の低下が重要な課題です。インナーマーケティングは自社への愛着・忠誠心の獲得に効果的なため、やりがいや満足度を高めるためにも必要となります
このように企業が抱える課題解決のため、組織力強化のためにインナーマーケティングが求められています。
インナーマーケティングの目的
続いてインナーマーケティングの目的です。インナーマーケティングの目的は、大きく2つに分けられます。
- 従業員のロイヤリティ向上
- 組織のパフォーマンス向上
これらの目的に対してなぜインナーマーケティングが効果的かを、それぞれ詳しく解説します。
従業員のロイヤリティ向上
インナーマーケティングは、従業員のロイヤリティ向上に効果的です。ロイヤリティは英語で、愛着や信頼を意味します。従業員のロイヤリティとは、会社に対する愛着、すなわち帰属意識を表します。
インナーマーケティングによって従業員のロイヤリティが向上する理由は主に以下の3点です。
- 自社に対する理解が深まるため、働く意味や方向性を把握できる
- 自社における自身の役割や必要性を実感できる
- 企業のために何をするべきか自主的に考え、積極的に行動できるようになる
従業員のロイヤリティは外部から強制的に高められるものではありません。インナーマーケティングなどの施策により、自社に対する理解や共感を得た結果として向上します。
組織のパフォーマンス向上
組織のパフォーマンス向上も、インナーマーケティングによって期待できる効果のひとつです。従業員一人一人の意識や姿勢の変化が、結果として組織全体にも影響を与えます。
組織のパフォーマンスが向上する流れとして、以下のような例があげられます。
- 従業員の有する自社に対する共感や愛着心が強まる
- 企業のために尽力しようという意識が強まる
- 労働に対して意欲的な姿勢を持つ従業員が増え、組織としての生産性が向上する
またインナーマーケティングによる従業員のロイヤリティ向上は、離職率の低下にも効果的です。離職率が低くなれば、採用・育成にかかるコストが抑えられるため、事業にまわせる資金・労力が大きくなります。このような流れも、組織のパフォーマンス向上につながるでしょう。
インナーマーケティングの精度向上に必要な要素
インナーマーケティングの重要性についての認知は広まっていますが、アウターマーケティングに比べ遅れているのが現状です。インナーマーケティングをより効率的に進めるには、精度向上に必要な要素を理解し、適切な施策を実施する必要があります。
マーケティングでは、対象者のフェーズに合わせた適切な施策の実施が大切です。アウターマーケティングとインナーマーケティングそれぞれのフェーズ、および必要な要素について解説します。
一般消費者対象:パーチェスファネル
一般消費者を対象としたアウターマーケティングでは、パーチェスファネルの考え方が重要です。そもそもファネルとは日本語で漏斗を意味する用語で、マーケティングでは顧客の意識遷移を示す逆三角形の図を指します。
パーチェスファネルでは、顧客が商品・サービスを購入するまでの流れを以下のフェーズに分けられます。
- 認知
- 興味・関心
- 比較・検討
- 購入・申し込み
認知フェーズにいる消費者のうち、購入・申し込みまで到達するのは少数です。すなわちフェーズが進むにつれ人数が少なくなっていきます。人数が絞り込まれていく様子を図に落とし込むと、逆三角形のようになります。
したがってマーケティングにおける意識遷移を表す様子に、逆三角形の器具であるファネルという呼び方がされているのです。
社内対象:エンゲージメントファネル
一般消費者を対象としたパーチェスファネルは、認知から購入までを4つのフェーズに区分けしたものでした。一方でインナーマーケティングでは、社内を対象としたバージョンであるエンゲージメントファネルを用います。最終ゴールが購入ではないだけでなく、フェーズの内容がやや異なります。
エンゲージメントファネルを構成するフェーズは以下のとおりです。
- 知る
- 理解
- 共感
- 行動
インナーマーケティングを進めるためには、一般消費者を対象としたパーチェスファネルとの違いをおさえることが大切です。そのうえで現在のフェーズに合わせた施策を展開する必要があります。
エンゲージメントファネルの活用は、従業員に対する理解を深め、効果的なインナーマーケティングを検討するうえで非常に有用です。
対象・フェーズを絞る
インナーマーケティングの精度を高めるには、対象・フェーズを絞ったうえで施策を進める必要があります。マーケティング施策でもっとも重要といえる内容です。
一言でマーケティングといっても、対象・フェーズによって適した方法は異なります。
たとえばエンゲージメントファネルにおいて「知る」フェーズにいる人には、企業理念や会社としての目的などを知ってもらう必要があります。そのような人に「企業理念に沿った業務の進め方を考えさせる」といった施策は不適切です。
このようなミスマッチは、対象・フェーズを考えず、施策ばかりに意識を向けた結果として起こるケースが多いです。効果的なインナーマーケティングを行うには、はじめに対象・フェーズを絞ってから施策を展開していきましょう。
マーケティングの手順
続いてはマーケティングの手順について解説します。インナーマーケティングとアウターマーケティングのファネルが有する要素は異なりますが、マーケティングの大まかな進め方次第は同じです。
具体的な流れは以下のとおりです。
- セグメンテーションの軸を決定
- コアターゲットの決定
- 自社のポジショニングを検討
- 整合性に優れたブランド価値の決定
エンゲージメントファネルで確認した内容をおさえつつ、各ステップを進めていきます。手順について詳しく解説します。
セグメンテーションの軸を決定
最初に行うのはセグメンテーションの軸の決定です。セグメンテーションとは区分を意味する言葉で、マーケティングにおいては市場を属性ごとに分けてセグメント(グループ)を作る行為を指します。
セグメンテーションを進める際は、軸を設定したうえで分類を行うと効率的です。主な分類方法は以下のとおりです。
- ジオグラフィック:地方・気候・文化など、地理的な要素による分類
- デモグラフィック:年齢・性別・職業など、客観的な属性による分類
- サイコグラフィック:ライフスタイル・価値観・性格などパーソナリティな要素による分類
- 行動:使用する場面や利用頻度など、行動に関する要素による分類
一言で自社の従業員といっても、特徴・属性はさまざまです。効果的なインナーマーケティングのためには、まずセグメンテーションの軸を定める必要があります。
コアターゲットの決定
続いてはコアターゲットの決定です。軸をもとに細かくセグメンテーションを実施し区分けされた中から、特に絞って対策を行うグループを決めます。ターゲティングとも呼ばれるフェーズです。
不特定多数を対象としたマーケティング施策では、結局どこにも響かず大きな効果を得られません。それよりも、特定のグループに絞った施策展開が必要です。効率的にマーケティングを進められるだけでなく、より確実な効果が期待できます。
ただしインナーマーケティングでは、対象をコアターゲットに限定するわけではありません。コアターゲットに集中しつつ、そこから別のセグメントへの波及効果も狙います。コアターゲットへの施策だけでなく、そこから周りに影響するまでのシナリオも考える必要があります。
自社のポジショニングを検討
続いて行うのは自社のポジショニングの検討です。自社の現状や今後の施策展開を考えるため、自社の立ち位置を明確にする必要があります。
ポジショニングの検討で大切なのは、コアターゲットと決定した社員から見た自社をイメージすることです。ポジショニングを主観的に検討するだけでは、周囲からの評価など、実態と乖離してしまう恐れがあります。コアターゲットとの関係性を考慮し、外部からどのような印象を持たれているかを考えながらポジショニングを検討しましょう。
ポジショニングの検討は、次の段階であるブランド価値の決定に深く関係します。自社ならではの確固たる優位性を明確にするには、細かな分析によるポジショニングの検討が必要不可欠です。
整合性に優れたブランド価値の決定
ここまでの段階で、セグメンテーションの軸・コアターゲット・自社のポジショニングを決定しました。最後にこれまでに分析・検討してきた要素を統合し、矛盾がなく整合性に優れたブランド価値の決定を行います。
前述したように、マーケティングは「誰に・どのような価値を・どのような方法で」提供するかを検討し、売れる仕組みを作る施策です。インナーマーケティングは売れることが目的ではありませんが、施策の概要は同じです。
すなわち「どんな社員に・どのような価値を(やりがいや他にはないメリットなど)・どのような方法で」を考える必要があります。ここまでの段階で洗い出された要素を組み合わせながら、誰が見ても納得できるようなブランド価値を決定します。
このような過程を経ることで、目的に向かって確実なマーケティング施策が展開できるでしょう。
インナーマーケティングの障壁
対顧客のアウターマーケティングと違い、インナーマーケティングには社内意思統一の難しさがあります。社員の意識や行動の方向性がバラバラでは、対外的なブランディング・マーケティングなども上手く進められません。そのため社内意思統一が必要不可欠ですが、施策を進めるうえで大きな障壁が存在します。
インナーマーケティングにおける障壁は、主に以下の2点です。
- 経営層と従業員の価値観のギャップ
- 管理職の意識改革
インナーマーケティングを実施するには、これらの障壁を上手く乗り越えなければなりません。それぞれ詳しく解説します。
経営層と従業員の価値観のギャップ
多くの企業は、経営層と従業員の間に価値観のギャップが存在します。ギャップの存在に気付かないまま施策を進めてしまった場合、インナーマーケティングが上手くいく可能性は上がりません。
ギャップの内容や程度は会社によってさまざまです。経営層から与えられる情報が役職や部署によって理解度や、行動を起こす際の優先順位に差が生じます.このままでは特別な対策をしない限りギャップが生まれるのは当然といえます。
また、従業員の価値観を経営層など会社側に強制的に寄せようとしても、ギャップが埋まるどころかエンゲージメントの低下につながるでしょう。そこで、価値観のギャップを埋めるための戦略的なコミュニケーションが必要になってきます。
大切なのはコミュニケーションを通し、従業員の価値観を受け入れつつ、会社として求める要素を伝えること。会社の理想に寄せるためのアプローチではなく、共有すべき理想を伝える施策が望まれます。
管理職の意識改革
経営層と従業員の間には大きなギャップがあります。しかしそれ以上に特に深刻なのが、現場に出る管理職に根付いている意識です。「世代間ギャップ」とも称され現場で直接的に関わる管理職と新入社員の間に存在するギャップが、インナーマーケティングにおける高い障壁となっています。
管理職世代が新入社員の立場だった頃の価値観には、現代とは異なる部分が多くあります。しかし時代の流れや価値観の変容を受け入れるのは容易ではありません。自分が経験してきた環境では存在しなかった価値観は、実感を持てないため受け入れがたいものです。そんな中で「現代には通用しないから」といわれても、素直に意識を変えられないことが「世代間ギャップ」の根源にあります。
管理職の意識改革が難しいのは事実ですが、効果的なインナーマーケティングを進めるには、避けては通れない障壁ともいえます。管理職がインナーマーケティングの伝達役に留まらず、価値観の相違を受け入れて乗り越えようとする姿勢が求められます。
視覚効果の活用
インナーマーケティングにはさまざまな施策がありますが、中でも視覚効果の活用は大きな効果が期待できます。ここでいう視覚効果の活用とは、企業理念や目的など抽象的な内容について、全員が同じ認識をできるよう「見える化」させる施策を指します。
見える化によってもたらされる効果や、見える化を実施するための具体的な方法について解説します。
見える化で組織力強化
見える化による施策展開は、よりスムーズな組織力強化が期待できます。まず、見える化の主な効果は以下のとおりです。
- 企業方針や目的など目指すべきゴールが明確になる
- 暗黙知(言語化や数値化などが難しい主観的な知識)を正確に共有できる
- 個人・集団の成長スピードやレベルなどの現状を把握できる
- 業務プロセスが明確になり無駄の改善・効率アップとなる
- ニーズや課題を正確に把握できる
すなわち見える化によって、共有が難しい内容や認識の相違が起こりやすい情報を明確化できます。全員が同じ情報を同じように理解できるため、組織が一丸となって同じ方向へ進めるようになるでしょう。
インナーマーケティングの目的は、最終的に組織力強化とつながります。したがって見える化は、インナーマーケティング施策に有用な方法です。
映像の活用
見える化を実現する方法はいくつかありますが、中でも高い効果が期待できる方法が映像の活用です。
映像の活用によるメリットとして、以下のポイントがあげられます。
- 豊富な情報量を短時間で確実に伝えられる
- 訴求力が強いため集中して見てもらえる可能性が高い
- 言語化の難しい細かなニュアンスまで伝えやすい
- 一度に多くの人に届けられる、一度制作すればその後長く使い続けられる
- 音楽・動画・画像・文字などさまざまな素材を使いイメージに沿った内容を仕上げられる
インナーマーケティングでは、企業理念や壮大な目的など、熱量の大きな内容を伝える必要があります。また社員に深く訴えるため、訴求力の強さも欠かせません。
映像はインナーマーケティングで必要となるさまざまな要素を、幅広く有する手段といえます。
インナーマーケティングを検討される方へ
インナーマーケティング施策は、自社のリソースのみで実施も可能です。しかし目標の達成には時間や労力などがかかる場合が多いうえ、効果的な施策を展開するためには、正しい知識や理解が求められます。
自社ですべて対応しようとせず、難しい部分はインナーマーケティングに強い企業に相談してはいかがでしょうか。
インナーマーケティングを進める方法の中でも、視覚的かつ多くの情報を伝えられる動画の活用は、非常におすすめできます。
シースリーフィルム(C3Film)は、テレビCM制作を核として培ってきたアイデアやクリエイティブの力を応用した施策を展開する企業です。インナーマーケティングを目的とした映像やデジタル作品などにも多く取り組んできました。
※制作実績はこちら
インナーマーケティングにおける従業員へのアプローチに映像を用いれば、エンゲージメントを高める効果が期待できます。シースリーフィルムはインナーマーケティングに関する課題整理から動画コンテンツの制作まで、ワンストップでサポートいたします。
インナーマーケティング施策で動画の活用を検討されている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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